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水戸地方裁判所 昭和55年(ワ)107号 判決

原告(反訴被告)

カネツ商事株式会社

右代表者

清水正紀

右訴訟代理人

阿部一男

被告(反訴原告)

丸山明

主文

一  被告(反訴原告)は原告(反訴被告)に対し、金三七〇万六五〇〇円及びこれに対する昭和五四年九月五日から支払ずみに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

二  被告(反訴原告)の請求を棄却する。

三  訴訟費用は本訴、反訴を通じて被告(反訴原告)の負担とする。

四  この判決は一、三項に限り仮に執行することができる。

事実

第一  申立

一  原告(反訴被告)

主文同旨

二  被告(反訴原告)

1  原告(反訴被告)の請求を棄却する。

2  原告(反訴被告)は被告(反訴原告)に対し、金八万八五〇〇円及びこれに対する昭和五五年三月二五日から支払ずみに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は本訴、反訴を通じて原告(反訴被告)の負担とする。

4  右2、3項につき仮執行宣言

第二  主張

一  本訴請求の原因

1  原告(反訴被告、以下「原告」という。)は、商品取引法に基づく商品取引員であり、顧客から各種商品取引所市場に上場される商品の先物取引の委託注文を受託する等を営業目的とするものである。

2  被告(反訴原告、以下「被告」という。)は、昭和五一年六月二〇日原告との間で、東京穀物商品取引所、東京砂糖取引所が定める受託契約準則に基づき、委託契約を結び、各種商品取引所市場に上場される輸入大豆・小豆・精糖の先物取引を委託注文していたものである。

3  原告は、被告から東京穀物商品取引所市場に上場される輸入大豆の先物取引に関し、委託注文を受けたので、原告は、別紙一覧表(一)ないし(四)記載の建玉欄及び手仕舞玉欄記載のとおり、右取引所市場において被告の指示どおり売付け又は買付けをした。

4  右売買の結果、被告は、別紙一欄表(一)ないし(四)記載のとおり、益金合計金五六五万二五〇〇円、損金合計金一六六三万二五〇〇円となつたが、被告は既に右益金の内金四〇五万六五〇〇円の弁済を受けたので、益金残高は金一五九万六〇〇〇円であるところ、これを右損金に充当した結果、結局、被告の損金額は金一五〇三万六五〇〇円となつた。また、被告は原告に対し、右売買について前記取引所が定める料率により委託手数料として売付け及び買付けそれぞれにつき、売買代金額にかかわらず一枚当り金三五〇〇円を支払う旨約していたところ、右売買による委託手数料は別紙一欄表(一)ないし(四)記載のとおり合計金二一七万円である。

5  よつて、原告は被告に対し、委託契約に基づき、右損金一五〇三万六五〇〇円及び委託手数料金二一七万円の合計金一七二〇万六五〇〇円から被告の委託証拠金一三五〇万円を差し引いた残金三七〇万六五〇〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和五四年九月五日から支払ずみに至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  本訴請求の原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実も認める。

3  同三の事実中、被告が原告に対し、東京穀物商品取引所市場に上場される輸入大豆の先物取引に関し、別紙一覧表(一)ないし(四)の建玉欄記載の建玉について委託注文をしたこと、次いで、これについて売手仕舞指示をしたところ、同表手仕舞玉欄記載中六月二八日までに手仕舞された旨記載されている建玉が、右記載の日に売手仕舞されたことは認め、六月二九日以降手仕舞された旨記載されている建玉については否認する。右建玉についても六月二八日に売手仕舞されたものである。

4  同4の事実中、委託手数料の約定、昭和五四年六月二八日までに売買された玉についての損益結果及び約定手数料額は認め、その余は否認する。

三  抗弁

1  被告は原告に対し、昭和五四年四月一三日から同年六月二八日までの間に、輸入大豆の先物取引として別紙一覧表(一)ないし(四)建玉欄記載のとおり委託注文をし、その委託証拠金として、昭和五四年六月二二日金九七〇万円、同年六月二五日金一三〇万円、同年六月二六日金二五〇万円、以上合計金一三五〇万円を預託した。

2  昭和五四年六月二七日立会終了時における被告の建玉は、(イ)、別紙一覧表(五)、12番八月限三〇枚の買玉、(ロ)、同表(五)、13番九月限一一枚の買玉のうち六枚、(ハ)、同表(五)、14番一〇月限一八枚の買玉、(ニ)、同表(五)、16番一〇月限五枚の買玉、(ホ)、同表(五)、20番八月限二〇枚の買玉、(ヘ)、同表(五)、21番九月限五枚の買玉、(ト)、同表(五)、22番九月限一五枚の買玉のうち五枚、(チ)、同表(五)、24番八月限一五枚の買玉、以上合計一〇四枚の輸入大豆の買建玉であつたが、相場が値下がりしたため、原告は被告に対し、昭和五四年六月二七日午後六時ころ、電報で「二八日正午までに四〇〇万円の追証拠金を入金しなければ二八日午場一節で建玉を手仕舞う。」旨のいわゆる強制手仕舞の通告をした。これに対し、被告は、昭和五四年六月二八日午前八時五〇分、原告に対し、「追証拠金は入れないので、午場一節の立ち合いを待たずに建玉全部を寄りつきから成行き手仕舞つてほしい。」旨指示した。

3  ところが、原告は、右強制手仕舞の通告を発したことによつて、被告に対し、通告どおり被告の建玉全部を六月二八日限り手仕舞うべき義務を負つたにもかかわらず、右義務を怠り、別紙一覧表(五)記載の六月三〇日手仕舞玉分については、六月二八日に手仕舞をしなかつた。したがつて、原告は、被告に対し、右義務を怠つたことによる損害賠償義務を負うべきである。ところで、六月二二日から六月三〇日までの被告の取引による損益結果は、益金合計金五六五万二五〇〇円、損金合計金一七一七万円であるところ、被告は、既に右益金内金四〇五万六五〇〇円の弁済を受けたので、益金残高は金一五九万六〇〇〇円であり、これを右損金から差し引くと被告の残損金は一五五七万四〇〇〇円となつた。また、被告は原告に対し、右取引について東京穀物商品取引所が定める料率により委託手数料として売付け及び買付けそれぞれにつき、各一枚当り当り金三五〇〇円の支払義務があるところ、その合計金額は二一七万円であるから、これを右残損金額に加算すると金一七七四万四〇〇〇円であり、被告は原告に対し、右金員の支払義務がある。一方、右六月三〇日手仕舞玉を六月二八日に手仕舞したものと仮定すると、被告の損金は、六月二二日から六月二八日までの間に別紙一覧表(六)記載のとおり、荒損金一二六八万七五〇〇円から荒利益二七万円を差し引いた金一二四一万七五〇〇円であり、これに右期間の手数料九九万四〇〇〇円(手数料額が原告主張の手数料額と差異があるのは、被告の計算結果が別紙記載のとおり六月二一日手仕舞分まで清算したものとして計算したためである。)を加算すると合計金一三四一万一五〇〇円にすぎないから、原告の被告に対する右債権額一七七四万四〇〇〇円から右金一三四一万一五〇〇円を差し引いた金四三三万二五〇〇円は原告の前記債務不履行による損害賠償として被告に対し支払うべきものである。被告は原告に対し、昭和五五年三月二四日の本件第五回口頭弁論期日において、被告の原告に対する右損害賠償債権をもつて原告の被告に対する前記債権金一七七四万四〇〇〇円とその対当額において相殺する旨の意思表示をした。その結果、原告の被告に対する残存債権額は結局金一三四一万一五〇〇円となり、これに前記被告が原告に預託した証拠金一三五〇万円を充当すると、原告の被告に対する本件債権はすべて消滅し、かえつて金八万八五〇〇円の余剰が生ずる結果となつた。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実は認める。

2  同2の事実も認める。

3  同3の事実中、原告が別紙一覧表(五)記載の六月三〇日手仕舞玉分については六月二八日に手仕舞をしなかつたこと及び相殺の抗弁の意思表示を受けたことは認め、その余は否認する。商品取引員が委託追証拠金預託日の日時を指定したとしても、商品取引員はその日時の経過により強制手仕舞義務を負うものではない。

五  再抗弁

昭和五四年六月二七日立会終了時における被告の残建玉は、抗弁2記載のとおり合計一〇四枚の輸入大豆の買建玉であつたが、昭和五四年六月二六日以降、輸入大豆の相場は急落した。このような状況の下で、原告は被告の指示に基づき、昭和五四年六月二八日の寄りつきから手仕舞に入つたのであるが、相場は下落する一方であつたので市場では売玉が殺到し、買玉は僅少であつたため、被告の建玉は、八月限三五枚、九月限五枚、一〇月限二〇枚、以上合計六〇枚しか手仕舞うことが出来なかつた。そこで、原告は被告に対し、東京穀物商品取引所受託契約準則第六条により売買の一部が不成立であつたこと及び手仕舞を引続き継続する旨の通知をした。次いで、六月二九日も同様の市況であつたため、同日も被告の建玉を手仕舞うことが出来ず、翌三〇日に至つて手仕舞を完了したものである。したがつて、被告の主張する六月二八日に建玉全部の売手仕舞が出来なかつたからといつて原告の責に帰することはできないものというべきである。

六  再抗弁に対する認否

再抗弁事実はすべて否認する。昭和五四年六月二八日東京輸入大豆の売買出来高は一万一〇四〇枚に達し、原告は、函館、新宿、名古屋、静岡、富山の大豆買玉及び法人系の買玉はすべて手仕舞つたのであるから、被告の手仕舞玉が売れなかつたという原告の主張は虚偽である。

七  再々抗弁

1  商品取引の市場管理に関する理事会決定事項には、制限値段時においては手仕舞玉が優先される旨定められており、仮に定められていないとしても、それが慣行である。ところが、原告は、右規定及び慣行に反し、(イ)、昭和五四年六月二八日、被告の八月限三〇枚の買玉の手仕舞をせずに自らは三枚の新規売建玉をし、被告の九月限一一枚の買玉の手仕舞をせずに自らは一五枚の売越残玉にさらに一枚の新規売建玉をして合計一六枚の売建玉をし、被告の一〇月限三枚の買玉の手仕舞をせずに自らは七枚の新規売建玉をし、(ロ)、同年六月二九日には、被告の買玉を一枚も手仕舞しないで、自らは、八月限五枚、九月限三枚、一〇月限三枚の新規売建玉に前日以来の売越建玉をした(なお、原告の右建玉は、他にもあるが、被告の建玉と競合する限月のみを掲記した。)。

2  また、前記理事会決定事項には、商品取引員が委託玉を手仕舞することが出来なかつたときは、自己の反対玉を委託者の玉と対当させて委託者の玉を手仕舞う措置(いわゆる「バイカイ付出し」)をすべき義務があるにもかかわらず、原告は右義務を怠り、自己の売建玉を多量保有していながら、被告の買建玉につきバイカイ付出しをしなかつた。

3  さらに、前記理事会決定事項には、商品取引員は、取引市場で成立した買玉について抽箋によつて配分を受けた場合には、それを委託者に再配分すべき旨定められているにもかかわらず、これに反し、原告は昭和五四年六月二八日抽籖によつて配分を受けた二七枚の玉を自社玉として保有し、また、自己のダミー会社に優先して配分をした。

八  再々抗弁に対する認否

1  再々抗弁1の事実中、被告主張の理事会決定事項の存在を否認し、その余は認める。

2  同2の事実は否認する。

3  同3の事実中、抽籖によつて配分を受けた二七枚を自社玉として保有したことは認め、その余は否認する。昭和五四年六月二八日原告に配分された買玉は、七月限二枚、八月限三枚、九月限一枚、一〇月限七枚、一一月限一四枚であつたが、原告は、これを一応自社玉として保有したうえで、「バイカイ付出し」の方法により自社玉と合わせて委託者の売玉と対当させて委託者の手仕舞を成立させたから配分玉を自社玉として保有したとはいえない。

九  反訴請求の原因

1  本訴請求原因1、2に同じ

2  本訴抗弁1ないし3に同じ

3  被告は、原告に対し、昭和五五年三月二四日送達の本件反訴状によつて、右委託契約を解除する旨の意思表示をした。

4  よつて、被告は、原告に対し、右委託契約終了に基づき、右預託金残金八万八五〇〇円及びこれに対する反訴状送達の日の翌日である昭和五五年三月二五日から支払ずみに至るまでの商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

一〇  反訴請求原因に対する認否

1  反訴請求原因1の事実は認める。

2  本訴抗弁に対する認否1ないし3に同じ。

3  反訴請求原因3の事実は認める。

一一  抗弁

本訴再抗弁に同じ

一二  抗弁に対する認否

本訴再抗弁に対する認否に同じ

一三  再抗弁

本訴再々抗弁に同じ

一四  再抗弁に対する認否

本訴再々抗弁に対する認否に同じ

第三  証拠〈証拠〉

理由

第一本訴請求事件について

一請求原因1、2の事実は当事者間に争いがない。また、同3の事実中、原告が被告から東京穀物商品取引所市場に上場される輸入大豆の先物取引に関し、委託注文を受けたので、原告が別紙一覧表(一)ないし(四)記載の建玉欄記載のとおり建玉をし、次いで、これについて売手仕舞の指示を受けたので、同表手仕舞玉欄記載中六月二八日までに手仕舞された旨記載されている建玉が、右記載の日に売手仕舞されたことは当事者間に争いがなく、〈証拠〉を総合すると、同表手仕舞玉欄に六月二九日売手仕舞された旨記載されている建玉については、実際は六月三〇日に売手仕舞されたものであるが、原告が被告に有利に六月二九日に売手仕舞されたものとして取扱つたこと、六月三〇日に売手仕舞された旨記載されている建玉については実際に同日売手仕舞されたことが認められ、他に右認定に反する証拠は全く存しない。

さらに、〈証拠〉によれば、右売手仕舞の結果、被告は別紙一覧表(一)ないし(四)記載のとおり、益金合計金五六五万二五〇〇円、損金合計金一六六三万二五〇〇円となつたが、被告は既に右益金の内金四〇五万六五〇〇円の弁済を受けたので、益金残高は金一五九万六〇〇〇円であるところ、これを右損金に充当した結果、被告の損金額は金一五〇三万六五〇〇円となつたこと、また、被告は原告に対し、右売買について前記取引所が定めた料率による委託手数料として、売付け及び買付けそれぞれにつき、売買代金額にかかわらず一枚当り金三五〇〇円を支払う旨約していたところ、右売買による委託手数料は別紙一覧表(一)ないし(四)記載のとおり合計金二一七万円であることが認められる。

右認定の事実によれば、原告は被告に対し、右委託契約に基づき右損金一五〇三万六五〇〇円及び委託手数料金二一七万円の合計金一七二〇万六五〇〇円の債権を有していたことが明らかである。

二次に、抗弁(相殺)について検討する。

抗弁1、2の事実は当事者間に争いがない。また、同3の事実中、被告が原告に対し、相殺の意思表示をしたことは当事者間に争いがなく〈証拠〉によれば、原告は被告から六月二八日全建玉の売手仕舞指示を受けたにもかかわらず、別紙一覧表(三)、(四)記載の建玉については、前記のとおり同日売手仕舞をすることが出来ず、六月三〇日に至つて売手仕舞を完了したことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

ところで、被告は、原告が前記のとおり六月二八日に建玉の売手仕舞指示を受けた以上、同日限り全建玉を手仕舞うべき義務があると主張するが、売買は相手方があつてはじめて成立するものであるから、この性質上被告主張のとおり解することは到底出来ないものというべきである。しかしながら、右事実によれば、原告は被告から建玉の売手仕舞指示を受けたことにより、被告の建玉を可及的すみやかに売手仕舞すべき義務を負つたものというべきであり、したがつて、これを怠れば当然損害賠償義務も負わなければならないことも当然である。そして、〈証拠〉を総合すると、昭和五四年六月二二日から六月三〇日までの被告の取引による損益結果は、益金合計金五六五万二五〇〇円、損金合計金一七一七万円であるところ、被告は既に右益金内金四〇五万六五〇〇円の弁済を受けたので、益金残高は金一五九万六〇〇〇円であり、これを右損金から差し引くと被告の残損金は金一五五七万四〇〇〇円となつたこと、また、被告は原告に対し、右取引について売買金額にかかわらず、東京穀物商品取引所が定める料率による委託手数料として売付け及び買付けそれぞれにつき、各一枚当り金三五〇〇円の支払義務があるところ、その合計金額は金二一七万円であるから、これを右残損金額に加算すると金一七七四万四〇〇〇円であり、被告は原告に対し、右金員の支払義務があること、一方、右六月三〇日に手仕舞した玉を六月二八日に売手仕舞したと仮定すると、被告の損失は、六月二二日から六月二八日までの間に別紙一覧表(六)記載のとおり、荒損金一二六八万七五〇〇円から荒利益二七万円を差し引いた金一二四一万七五〇〇円であり、これに右期間の手数料金九九万四〇〇〇円を加算すると合計金一三四一万一五〇〇円にすぎないから、原告の被告に対する右債権額一七七四万四〇〇〇円から右金一三四一万一五〇〇円を差し引いた金四三三万二五〇〇円は原告が右六月二八日に売手仕舞しなかつたことによる損害であることが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

三進んで、再抗弁(免責事由)について判断する。

昭和五四年六月二七日立会終了時における被告の残建玉が一〇四枚の輸入大豆の買建玉であつたこと、原告が被告に対し、六月二七日強制手仕舞の通告をしたこと、これに対し、被告が原告に対し、六月二八日午前八時売手仕舞指示をしたことは前記のとおりであり、さらに、〈証拠〉を総合すると、原告は、被告の前記売手仕舞指示に基づき、昭和五四年六月二八日の寄りつきから被告の建玉につき売手仕舞に入つたのであるが、相場は下落する一方であつたので、市場では全限全場すべて売玉が多く買玉が少ないために起る現象である、いわゆるストップ安になり、被告の建玉は、八月限三五枚、九月限五枚、一〇月限二〇枚、以上合計六〇枚を売手仕舞出来たのみで、四四枚については手仕舞することができなかつた。そこで、原告は被告に対し、東京穀物商品取引所受託契約準則第六条により売買の一部が不成立であつたこと及び手仕舞を引続き継続する旨通知をした。次いで、六月二九日も相場は下落し続けたため、同日も被告の建玉の手仕舞が出来ず、翌三〇日に至つて全手仕舞を完了することが出来た。以上のとおり認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右の事実によれば、原告が六月二八日に被告の全建玉の手仕舞を完了することが出来なかつたのは、原告の責に帰することは出来ないものというべきである。

ところで、被告は、昭和五四年六月二八日東京輸入大豆の売買出来高は一万一〇四〇枚に達し、しかも原告は、函館、新宿、名古屋、静岡、富山の各支店の大豆買玉及び法人系の買玉はすべて手仕舞が出来たのであるから、被告の手仕舞玉が売れなかつたという原告の主張は虚偽である旨主張するが、〈証拠〉を総合すれば、六月二八日成立した輸入大豆の売買出来高は被告主張のとおり一万一〇四〇枚であるが、これらのすべてがセリの段階で成立したものではなく、いわゆるバイカイ付出しによつて成立した枚数も含んでいること、また、右一万一〇四〇枚のうち被告の手仕舞と関係があるのは、八月ないし一〇月限であるところ、売手仕舞玉は八月限委託玉四八三枚(参加取引員数は三九店ないし四七店であるが、仮に、四〇店と仮定しても、一店当り約一二枚)、九月限委託玉八七一枚(一店当り約二一枚)、一〇月限委託玉二〇六二枚(一店当り約五一枚)しか取引市場で売買が成立していないこと、このような状況の中で、同日、原告が被告の売手仕舞注文を一部成立させることが出来たのは、八月限については、原告が自社玉を三二枚手仕舞をしたうえ、さらに、同日、原告が三枚の売新規玉を建て、即日これを買手仕舞することによつて成立した買手仕舞玉三枚、及びストップ安のため抽籖により取引所から原告に配分された五枚を加えた合計四〇枚のうち三五枚を優先的に被告の売手仕舞注文に充当したこと、九月限についても自社玉放出分四〇枚と新規建玉をして即日手仕舞した玉一枚、当籖玉七枚の合計四八枚を水戸支店(被告)へ五枚、新宿支店へ五枚、法人二枚、名古屋支店へ五枚、静岡支店へ五枚の各割当てをしたこと、さらに、一〇月限についても自社玉放出分三七枚と新規建玉をして即日手仕舞をした建玉七枚、当籖玉一三枚の合計六〇枚を郡山支店一〇枚、水戸支店(被告)二〇枚、新宿支店五枚、法人二〇枚、名古屋支店五枚の各割当をしたことが認定でき、右の事実に六月二八日が前記のとおりいわゆるストップ安だったことを併せ考えると、被告の右主張は失当として排斥を免れないものというべきである。他に、前記認定判断を動かし、原告の免責事由の存在を疑わせるに足りる証拠はない。

四再々抗弁について

1  まず、再々抗弁1(手仕舞玉優先の慣行違反)について検討する。

被告は、商品取引の市場管理に関する理事会決定事項には、制限値段時においては新規建玉よりも手仕舞玉が優先される旨定められていると主張するが、本件全証拠によつても、右主張事実を認めるに足りる証拠はない。ところが、〈証拠〉を総合すると、商品取引員は、委託者の手仕舞玉を仕切つた後でなければ、自己の新規建玉をしてはならないことは商道徳上当然のことであるのみならず、業界においてもこのことは長年遵守されてきたこと、さらに、東京穀物商品取引所も、日ごろ、商品取引員に対し、右のことを厳守するように指導していることが認定できる。

右の事実によれば、手仕舞玉優先の慣行は、いわゆる事実たる慣習として確立しているものといえよう。

ところで、〈証拠〉によれば、原告は、昭和五四年六月二八日、被告の八月限三〇枚の買手仕舞玉を仕切らずに、自らは三枚の新規売建玉をし、さらに、被告の九月限一一枚の買手仕舞玉を仕切らずに自らは一五枚の売越残玉にさらに一枚の新規売建玉をして合計一六枚の建玉をし、被告の一〇月限三枚の買手仕舞玉を仕切らずに自らは七枚の新規売建玉をしていることが認められるので、これは明らかに右事実たる慣習に違反したものと断定せざるを得ない。

しかしながら、一方、〈証拠〉によれば、昭和五四年六月二八日の買玉の売手仕舞希望者は、被告のほかにも多数いたが、同日はいわゆるストップ安のため、これらの者の中にも買建玉の売手仕舞をすることが出来なかつた者が相当数いたことを考えると、原告が手仕舞玉優先の慣習を遵守したとしても、必ずしも被告の建玉が売手仕舞出来たものと認めることはできない。そうすると、原告の手仕舞玉優先を怠つたことによる債務不履行と被告の手仕舞玉を仕切ることが出来なかつたことによる損害との間に、直ちに因果関係があるということはできないものというべきである。したがつて、被告の右主張も失当として排斥を免れない。

2  次に、再抗弁2(いわゆるバイカイ付出義務違反)について判断する。

〈証拠〉を総合すると、いわゆるバイカイ付出しをするかどうかは、商品取引員の自由裁量に属することであつて、その義務があるものとはいえないことが認められる。このことは、本件弁論の全趣旨によれば、商品取引員も、独自の相場観に基づき自己売買をすることが認められるので、この点からも首肯し得るところである。したがつて、商品取引員にはバイカイ付出し義務があつて、原告はこれを怠つた旨の被告の主張も失当といわざるを得ない。

3  さらに、再抗弁3(当籖玉配分義務違反)の主張について検討する。

〈証拠〉を総合すると、前記理事会決定事項には、商品取引員は、取引市場で売買が成立した建玉について抽籖によつて分配を受けた場合には、それを委託者に分配すべき旨定められていること及び原告が昭和五四年六月二八日抽籖の結果二七枚の玉の配分を受けたことが認められる。しかしながら、右理事会決定事項は、分配玉による利益は委託者が受けるべきであつて、商品取引員がこれを保有して終局的に利益を受けることを禁止する趣旨と解すべきところ、原告が昭和五四年六月二八日抽籖の結果配分を受けた二七枚の玉を自社玉として保有したことは当事者間に争いがないが、一方、〈証拠〉を総合すると、原告が自社玉として保有した右二七枚は、原告から配分を受けた委託者の中には配分枚数が手仕舞希望枚数に比して僅少のため配分を受けるのを断わつた者があつたので、これを寄せ集めたうえ、これを自己玉に加えて枚数を増やして分配すると、客も抵抗なく受け入れるだろうと考えて、いつたん原告が保有したものであること、そして、この中で被告に関係のある八月ないし一〇月限にかぎつてみると、原告は委託者に対し、八月限の自己玉三二枚と抽籖に当つた玉三枚を、九月限の自己玉五六枚中四一枚と抽籖に当つた玉一枚を、一〇月限の自己玉三七枚と抽籖に当つた玉七枚をそれぞれ委託者に配分したことが認められる。右事実によれば、原告が配分を受けた玉を保有したことは形式的には右理事会決定事項に違反したといえるが、終局的には、これを委託者へ配分していることが認められるので、実質的には右理事会決定事項に違反したとはいえないものというべきである。

なお、被告が主張するように、原告が分配を受けた玉を自己のダミー会社に再配分したことを認めるに足りる証拠はない。

右事実によれば、被告の抗弁3も失当として排斥を免れないものというべきである。

第二反訴請求事件について

一反訴請求原因1、2(本訴請求原因1、2、本訴抗弁1ないし3)に対する判断は、前記第一、一(但し、請求原因1、2の事実は当事者間に争いがないという部分)、二説示のとおりであり、同3の事実は当事者間に争いがない。

二次に抗弁(本訴再抗弁)に対する判断は、前記第一、三説示のとおり。

三さらに、再抗弁(本訴再々抗弁1ないし3)に対する判断は、前記第一、四、1ないし3説示のとおり。

したがつて、被告の反訴請求は失当というべきである。

第三以上の次第であるから、原告の本訴請求は理由があるから認容し、被告の反訴請求は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、仮執行の宣言について同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。 (永吉盛雄)

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